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2014年10月25日 (土)

抗生剤と精油/耐性菌の問題

夏期下痢症を起こしたり、尿路感染症の原因になる腸内細菌(グラム陰性桿菌)であるセラチア属、モーガネラ属、プロテウス属に属する細菌は、おそろしい院内感染を引き起こすこともあり、注目されている微生物です。


精油に対して、種々の細菌類が耐性を示すようになったという報告は、極めて限られたものしかありません。ある微生物に対して、ティートゥリー精油の濃度を上げないと殺菌力が減弱したとか、あるいは上述の腸内細菌に対し、抗菌力の強いオレガノやシナモンの精油を種々の抗生剤と組み合わせて実験をしたところ、細菌類をオレガノで処置してから抗生剤を使うと細菌の抗生剤に対する感受性に変化がみられたとか、前処理で、オレガノ自体に対する感受性が変化したなどの報告程度です。
in vitro(試験管内)の実験であっても、細菌が精油に対して強い耐性を獲得したというニュースは流れてきません。



私たちが病気になった時に服用する薬剤は、抗生剤の場合に合剤として抗菌スペクトルを広げるために他の抗生剤を組み合わせて投与したり、種々の目的別の薬剤を一緒に服用することはありますが、細菌に対する場合の話になりますと、単体の薬物は、構造は複雑でも1種類の化合物です。細菌は、敵の数が少ないですので、比較的簡単に敵の弱点を見いだして、耐性を獲得しているとも考えられないでしょうか。


精油の場合は、1滴の精油中にも、抗菌力を発揮する成分として、数種のアルコール類、フェノール誘導体などなど、ざっとカウントしても数多くの成分が混入しています。いえいえ、超微量の成分まで精査すれば、敵ばかりとは言えませんが、無数の有機化合物が入っていますので、どれを敵として捉えるかだけでも、細菌にしてみれば、非常にやっかいな敵であることでしょう。

以上は推論でしかありませんが、多くの病原細菌が耐性を獲得する時に関係するプラスミドDNAについて少しばかり勉強をすると、塗り薬として使用する際の精油のすごさの謎が解けてくるかと思います。

ここで、少しばかり動物の遺伝子のことをおさらいしておきましょう。"DNA"とか"遺伝子gene"とか、"ゲノムgenome"などの用語がよくメディアでも取り上げられますが、遺伝子geneというのは、様々な遺伝情報を担う因子そのものを指し(例えば、大型犬の体格を決める遺伝子など)、DNAという用語はその遺伝子を構成するデオキシリボ核酸という"物質の名前"です。[ここでは、RNAを遺伝子とするウイルスのことは除外してお話をすすめます。]4種の塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)が繋がったDNAの鎖が二重螺旋構造をとっていることは有名ですが、その中の一部の単位(部分)が遺伝子にあたると思って下さい。この遺伝子が連なって、それぞれの染色体上に並んでいます。ゲノムというのは、ある生物の染色体上にある全遺伝情報を網羅したものを意味し、gene(遺伝子)とchromosome(染色体)を合わせた造語です。


このDNAの二本鎖には、親鎖(遺伝子の配列がコードされる先端にプロモータという領域がある鎖)があり、ここに重要な暗号がしっかりと刻まれています。なぜ二本になっているかというと、一種の保険がかかっていると言われています。遺伝子の増幅中にDNA親鎖に変異が起った時などに、副鎖の方に、親鎖とは塩基が相補的ではありますが、その配列情報が残されているので、修復の可能性が高まるからではないかとも推察されているようです。

遺伝子は複製される際に、ちゃんとこの親鎖の情報をmRNA(メッセンジャーRNA)に酵素の力を借りて余分な部分intronを除き、exonと呼ばれる部分に書き込まれた蛋白質合成のための遺伝コードだけが手渡されます。その際に、塩基の1つであるDNAのチミンは、RNAでは別のウラシルという物質に入れ替わります。このタンパク合成の暗号(3種の塩基から成るアミノ酸をコードする"コドン"と呼ばれる単位)を持つmRNAは細胞核を出て、細胞質にあるタンパク合成工場となるリボソームという部署へ運ばれていきます。

動物の体内をめぐるホルモンや酵素も1種の蛋白質なので、特定のアミノ酸が組み合わさって作られています。

以前の記事で、猫はUGT1A6という大変重要な肝臓の代謝酵素に関して、このコドン情報のうち、タンパク合成過程で、ここでアミノ酸を繋げる作業を中止せよ!というストップコドン(別名:終止コドンは、ナンセンスコドンとも呼ばれます。アミノ酸をコードしていない意味の無いコドンの意味になります)に変異があるため、正常な酵素がつくられないというお話をしたことを思い出して下さい。遺伝子のこのような情報を精査するには、コドンが刻まれているmRNAを解析する必要があるのです。mRNADNA親鎖の情報を相補的な塩基に置き換えて写し取った情報を持ち、1本鎖構造をしています。

その後のリボソーム内では、mRNAを筆頭にRNA三銃士と呼ばれる、さらなるrRNA(リボソームRNA)やtRNA(トランスファーRNA)がそれぞれの役目を発揮して、この工場内で定められたアミノ酸が順番に繋げられて、酵素などの蛋白質が作られていきます。

非常に込み入った話になってしまいましたが、お話をプラスミドに戻します。プラスミドDNAは、上述のような遺伝子とは異なり、細菌などが増殖する際に重要な染色体上のDNAではないのですが、近隣の細菌同士で性繊毛などを介して連結し、情報をやり取りする不思議なメカニズムを持っています。病原細菌に対して抗生物質が投与されると、細菌は当該薬剤を敵とみなし、抵抗力をつけるために耐性を獲得していきます。その際に、このプラスミドDNAに変異が起って、耐性菌になっていきます。そのプラスミドDNA情報は、あっという間に近隣の仲間に伝えられるので、病原細菌はあっという間に、その薬剤では死滅しないという手強い病原体に変化してしまうのです。

医学の分野でも、このプラスミドDNAを消滅させて、病原体に耐性を獲得させまいと、antiplasmid効果を期待して、Chlorpromazinepromethazineなどの薬剤が試用されたことがありますが、劇薬に指定されているものもあり、抗菌剤との併用が困難を極めます。

ここで、精油でなぜ耐性菌ができにくいかという理由をご説明したいと思います。ただし、精油はボトルごとに成分変動が激しいことと、学術的報告がなされていても、研究に使用した精油の偽和の有無が不明な場合が殆どで、世のアロマ情報は真のエビデンスに欠けることが多いことなどから、精油を通常の西洋薬の飲み薬と同等と捉えることはできません。ここでは、外用薬として、塗布することに限ってお話させていただきます。

まず、病原細菌が耐性を獲得するには、プラスミドDNAなどに変異が起らなければなりません。ニトロソグアニジンという化学物物質で細菌を処理すると、その刺激でDNAに突然変異を起こすのですが、細菌を極めてうすい濃度のラベンダー精油で前処理しておくと、この突然変異が起らないことが確認されています。精油の中には、細菌のDNAの突然変異を起こしにくくするものがあるということが1つ目の理由です。

2つ目の理由は、精油の中には、Plasmid DNAを消失してしまうantiplasmid作用(別称;Plasmid curing, Plasmid elimination)を持つものがあることが判明しています。プラスミド自体が消失してしまうと、病原細菌は耐性を獲得する手段を失うということになります。その作用を有する精油の代表格は、ペパーミント精油と、その主成分であるℓメントールです。ペパーミント精油は0.325mg/mL96%のプラスミドを消滅させる作用があるとの報告です。その他、ユーカリ精油、ローズマリー精油にも、多少のantiplasmid作用があると述べられていますが、数十ドルするこの論文を購入して読んでみると、単にユーカリ精油、ローズマリー精油とだけ記載されており、精油を採取した植物の学名はおろか、研究者自身による成分分析もなされていませんので、数多くあるユーカリ精油の何の種類なのか、ローズマリー精油の主成分が何なのかが全くわからず、アロマ製品の偽和の有無に関する手がかりも全くつかめませんので、大変がっかりです。しかし、真のエビデンスは揺らぎますが、合成ℓメントールなどでantiplasmid作用が報告されていますので、精油における耐性菌の発現報告が限られていることからも、それなりの作用があることは間違いないと推察しています。

3つ目の理由は、前の記事でお知らせした通り、精油の成分が大変複雑で、ブレンドをすることにより、抗菌スペクトルが広がる可能性も示唆されます。精油の中に、複数のphytoalexin(フィトアレキシン;植物が産生する抗菌性の二次代謝産物)が存在することも、病原体にとっては耐性を獲得するのにやっかいな相手なのでしょう。正しい精油を使うことが絶対条件ですが、多剤耐性の病原菌が問題視される昨今、外用薬としての精油の利用価値は今後ますます高まるのではないかと感じています。

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